圧縮表層構造 30



小学校の柳の木が折れたと聞いて
僕はコートも羽織らずに家を出た

吐息が白く輝く校庭では
大勢の子供達と数人の若い女性教師が彼女を取り囲み
一言も発せずただ固唾を飲んでいた

上半身だけとなった彼女は真上を
雲のない虚空の一点をじっと見つめ
(恐らくもう眼球を動かすことすらできないのだ)
「殺さないで」「お姉ちゃん助けて」と
かすれた声でうわごとのように繰り返す

彼女が助かることは最早あり得ない
だから僕が嘘をつく必要もないわけで
僕がその手をそっと握ると
彼女は瞬く間に真っ白な灰と化して
そのまま不可視の民となる


メニューに戻る  トップへ戻る  感想を書く
菅井 清風([email protected])
© 2000 SUGAI Kiyokaze